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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)993号 判決 1965年8月21日

原告 国

代理人 横山茂晴 外三名

被告 高橋とよ

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

訴外会社は被告および三浦光子ら七名が発起人となり資本金一〇〇万円、設立にあたり発行する株式数二、〇〇〇株、一株の額面金額五〇〇円にて昭和三一年一二月一八日設立された株式会社であること、右株式二、〇〇〇株が発起人その他の株式引受人によつて引受けられたことおよび訴外会社の株式払込取扱銀行である第一銀行虎ノ門支店から右株式二、〇〇〇株の株金一〇〇万円が払込まれた旨の払込保管証明がなされ、これに基づいてその後の設立手続が進められたことは当事者間に争いがない。原告は、第一銀行虎ノ門支店に払込まれた右金一〇〇万円は設立中の会社が三浦光子から借受けた金員をもつて株式の払込みを仮装したものであり、三浦は会社成立後右金一〇〇万円金額の返済を受けているものであるから、実質的には株式払込はなされていない旨主張するもので、この点について判断する。

成立に争いのない甲第三、四号証、証人村田修の証言および被告本人尋問の結果(いずれも後記信用しない部分を除く)を綜合すれば次の事実が認められる。

被告は昭和二八年ごろから若い女優たちを集めて女優座の名で演劇の公演を行つたりしていたが、公演の度に負債を背負いその処理に苦労していた。その様子を見て、三浦光子は経費負担を軽くするため女優座を株式会社にするよう被告に勧め、計理士村田修を紹介した。そこで被告、三浦光子および村田修の三名が相談した結果、女優座を株式会社組織にすること、その設立手続及び会社成立後の経理面は村田修においてすべて引受けること、三浦光子、被告および村田修の妻雅子はその発起人となり、その余の発起人は三浦と被告においてそれぞれ依頼して引受けて貰うこと、三浦以外には資力がないので設立にあたり発行する株式二、〇〇〇株の株金一〇〇万円は三浦においてその余の発起人および株式引受人の分も含めて金額これを出資し、設立当初の諸経費にあてること、右金一〇〇万円は会社成立後会社に入つてくる収益の中から少しづつ三浦に返済することが約束された。

そして、右約束にもとづき計理士村田修の指図により、三浦光子は訴外会社の株式二、〇〇〇株の株金一〇〇万円全額を第一銀行虎ノ門支店に払込み、会社成立後約一年位経つたころから会社より少しづつその返済を受け昭和三四年春ごろまでには右金一〇〇万円全額の返済を受け終つた。

右の事実が認められ、右認定に反する証人村田修の証言の一部と被告本人尋問の結果の一部は前記各証拠、とりわけ甲第三、四号証に照したやすく信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、証人東野博の証言により成立が認められる甲第五号証および同証言によれば、第一銀行虎ノ門支店は昭和三一年一二月一八日訴外会社の株式払込金として金一〇〇万円を受入れ、これを別段預金として処理し、同月二一日右別段預金を訴外会社の普通預金に振替えたこと、右普通預金口座の出入については同月二五日に金二五万円が受入れられたが、同月二七日に金一〇万円翌二八日に金三万円、同月三一日に金一〇万円、昭和三二年一月五日に金一〇万円がそれぞれ払出されていることを認めることができ、これに反する証拠はないが、前記認定のとおり三浦光子は会社成立後一年位経つたころから少しづつその出資金の返済を受けたものであるから、会社成立後二一日間に払出された合計金一二五万は三浦光子の出資金の返済にあてられたものとは到底考えることができない。

以上認定の事実によれば、三浦光子が出資した一〇〇万円は現実に訴外会社の諸経費にあてられ、その資産として運用されたものと認めるのが相当である。法が株式会社の成立にあたりその発行する株式全部の払込みがなされることを要求する趣旨は、それにより株式会社の物的基礎である資本を確保しようとするものであるから、三浦光子が一人で、自ら引受けた分は自らの分としてその余の発起人および株式引受人の引受けた分はそのものらの分として訴外会社が設立にあたり発行する株式二、〇〇〇株の株金一〇〇万円を全額払込んでも、右金一〇〇万円が現実に訴外会社の資産として運用される以上(三浦光子とその発起人および株式引受人との間において三浦が代りに払込んだ金員につき返済の話し合いができていたかどうかにはかかわりなく)、右三浦の株式払込みの効力を否定するには及ばない。

また、株式会社成立後にその収益の中から株主に出資金を全額返還するというようなことは法の到底認めないところであるが、敢えてこれをなしてもそのため取締役等が民事あるいは刑事上の責任を負うことがあるのは格別、そのことが一端有効になされた株式払込みの効力に影響を与えることはなく、さらに右株返還金の合意が株式を払込む際すでになされていたとしてもその払込みにかかる金員が一端会社の資産として運用されその収益の中から返還するものである以上なお右株式の払込みを有効と考えるのが相当である。

してみれば、訴外会社の株式二、〇〇〇株は全て有効に払込まれているものであるから、被告にはさらに右株式の払込義務はなく、その義務があることを前提とする原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

よつて、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 西川豊長 上田豊三)

目録(省略)

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